「法の不知はこれを許さず」ーネット上の誹謗中傷ー
「法の不知はこれを許さず」
似た言葉に「無知は罪」というものがあります。
刑法第38条第3項には
「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない」
との明文の規定があります。
極端にいえば、人を殺したら、殺人が犯罪であるということを知らなくて
もそのことによって故意の成立は阻まれない、ということです。
最近、某テレビ局の某リアリティ番組の出演者がネット上の誹謗中傷に耐えかねて自ら命を絶ったというニュースが巷をにぎわせています。
これをうけてか、某SNSなどでは芸能人も誹謗中傷に対しては積極的に法的手段をとることを宣言することが増えてきているように思えます。
ネットでの誹謗中傷というものは時として過熱しがちです。
その理由として集団心理やネットリテラシーの欠如が挙げられますが、
私は、刑法の規範意識が正常に作用していないことが原因だと思います。
通常人が犯罪を犯すときは、刑法の「そんなことやっちゃだめだ!それをすると懲役などの刑罰がまっているぞ!」という一種の警告が働き、理性でその不利益を判断し
「じゃあ、やめよう」となる。これが刑法の一般予防の機能ですが、ネット上の誹謗中傷は、指先だけで簡単に、直ちに、広範囲に送信することができます。
刑法の規範意識が作用する間もなく行為が終了してしまいます。
しかし、上記に述べたように、罪を犯す意思がなくても故意の成立は妨げられませんので、ネットでの誹謗中傷は刑法230条以下の名誉に対する罪の構成要件に該当する可能性があります。
ただ、人の表現行為はとても繊細な事柄です。
ネット上の誹謗中傷すべてを法的手段によって解決できるとすれば、それはそれで人の表現行為を委縮させる結果につながり得るし、それは憲法問題にも発展し得ます。
人の死を利用するということではありませんが、この事件をきっかけとしてインターネットと刑法、民法、憲法の問題の議論がもっと一般の人にも深まっていけば、将来の被害者を救うことができるかもしれませんね。