二階に上げて、ハシゴを外す

気になったものをまとめ、書いていきます

意外な判例集(刑事)

 裁判所は実際にどんな事実があったか、を追求する真実の解明というだけでなく、法律の条文がどんな趣旨をもち、どういった解釈をするか、を決める役割を持ちます。

そこで、今回は筆者が「これはおもしろい!」と感じた判例を紹介します。

なお、判例の「○○事件」というものは通称があればそれを、ない場合は筆者が勝手に命名しております。

いずれも超有名なものばかりです。

1.「毀棄」の意義(放尿)

大判明治42年4月16日

「放尿事件」

(放尿行為に器物損壊罪を認めた事例)

「いわゆる条文に毀棄もしくは損壊とあるは単に物質的に器物そのものの形態を変更又は減尽せしむる場合のみならず、事実上もしくは感情上そのものをして再び本来の目的の用に供すること能はざる状態に至らしめたる場合をも包含せしむるものと解釈するを相当とす

故に本件のごとく被告において営業上来客の飲食用に供すべきすき焼き鍋及びとっくりに放尿せし以上被害者において再び該品を営業用に供すること能はさるはもちろんなる

→みんなも放尿したりしないよう気を付けましょう。

 

2.「暴行」の意義(塩まき・音・投石等)

大判昭和8年4月15日

判決要旨

「刑法208条第1項にいう暴行とは人の身体に対する不法なる一切の攻撃方法を包含しその暴行が性質上傷害の結果を惹起すべきものなることを要するものに非ず」

最高裁は暴行罪にいう「暴行」とは人の身体に対する不法な攻撃の一切を言う、とします。

以下事例を見ていきましょう

福岡高判昭和46年10月11日

「塩かけ事件」

(塩を振りかけた行為に暴行罪を認めた事例)

判決要旨

「(被告人が、嫌悪の情を抱いていた女性を追いかけ、塩壺から塩を数回、頭、顔等にふりかけた行為について)通常このような所為がその相手方をして不快嫌悪の情を催させるに足りるものであることは社会通念上疑問の余地がないものと認められ、かつ同女においてこれを受忍すべきいわれのないことは明らかである。してみれば、本件行為が不法な有形力の行使に該当すべきことはいうまでもない。

→力士が土俵入りする際に特定のお客さんに向けて塩をどばっとかけたりしたら、暴行罪になるんでしょうか?

 

最判昭和29年8月20日

「大太鼓事件」

(音による暴行を認めた事例)

判決要旨

「被告人がブラスバンド用の大太鼓等を連打し、頭脳の感覚鈍り意識朦朧たる気分を与え又は脳貧血を起さしめ息詰るごとき程度に達せしめたときは暴行と解すべき」

→某サンシャイン〇崎も場合によっては.....?

 

東京高判昭和25年6月10日

「そんなつもりじゃなかった事件」

(投石する行為に、暴行罪を認めた事例)

判決要旨

「例えば人に向かって石を投じ又は棒を打ち下せばたとえ石や棒が相手方の身体に触れないでも暴行は成立する。/投石の動機がいたづらでも又その目的が同人を驚かせることにあっても投石行為を適法ならしめるものでないから/暴行をなしたものと言い得る」

 →過激なイタズラはやめましょう

大判明治45年6月20日

「髪は女の命事件」

(女性の頭髪の切断に暴行罪を認めた事例)

判決要旨

毛髪のごときは、身体の一部として法の保護する目的たることを失わずといえども、不法にこれを截断し、もしくは剃去する行為はこれをもって直ちに健康状態の不良変更をきたしたるものというを得ず、/刑法208条の暴行罪をもって処罰することを相当とす

→筆者は中学の時にいつもと違う1000円カットに行ったら

 イジリー岡田みたいな髪型にされたことがあります。

 3.「傷害」の意義(騒音)

大判明治45年6月20日(前掲)

判決要旨

「刑法第204条の傷害罪は他人の身体に対する暴行によりて、その生活機能の毀損すなわち健康状態の不良変更を惹起することによりて成立する

 暴行→傷害というステップで進みます。

以下、事例。

最決平成17年3月29日

騒音おばさん事件(奈良騒音傷害事件)」

決定要旨

「被告人が約1年半にわたり、隣人に精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、ラジオや目覚まし時計を大音量で鳴らし続けるなどして全治不詳の慢性頭痛等の傷害を負わせた行為につき、傷害罪の成立を認めた原判断は正当である。」

「引っ越し♪引っ越し♪さっさと引っ越し!しばくぞ!」

騒音おばさん事件って、最高裁までいったんだね

4.「わいせつ物」の意義

最大判昭和32年3月13日

「チャタレー事件」

(わいせつ概念の維持)

判旨「わいせつ文書とはいかなるものを意味するか。最高裁判所の判決は『いたづらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう』としている、そして我々もまた判例を是認するものである」

 →「いたづらに~」の部分はぜひ声にだして読んでみたい判決文ですね。

→この事件は最高裁判所の大法廷、つまり最高裁判所裁判官15人全員で評議をしています。

 15人のおじさんが一生懸命「わいせつ文書」について考えるってなんかとても楽しそうですよね。